演出レポート|短編集「紙風船」(梨園の宴参加作品)

2020年10月18日に「紙風船」を上演しました。
初めての野外公演ということもあり、関係各所多大なお世話になりながら、形にしていくことができました。改めて御礼申し上げます。

本公演は、鎌ヶ谷アルトギルドさん主催の「梨園の宴」に参加させていただきました。同団体主宰の石井さん保有の梨園を舞台に行われる野外芸術祭であり、今年で六回目となります。舞台構成によって若干位置は異なるのですが、今回は客席を梨畑の中に設置しそこから外の舞台を見るように設置しました。

今回、演目は「紙風船」(作:岸田國士)を選びました。元々は別の形で出せないかと試行錯誤していたものではありますが、野外という特有な環境によって、当初の想定よりも一回り、二回りと進化していくことになりました。

車の音、風の音、雲の動きなど、観客の演劇を観るという環境を作ることがこんなに大変なのかと身にしみる一方で、黄昏〜日暮れの絶景を美術として活用できた嬉しさもあり、劇場に拘った活動をしていた時とは異なる経験を得られた気がします。

だって、前日まで雨でこのままだとレインコート着て本番だなぁとか覚悟してたのに当日この青空(笑)
因みに雨天時↓
さて、「紙風船」は大正時代のある夫婦の日常を描いた作品となります。現代に生きる我々が読んでも「そうだよなぁ」としみじみ自分達の夫婦やら人間関係の有り方と比べてしまうほどリアルな内容です。

今回は二組の夫婦で演じる構成にしました。原則、動きと言葉は同一ですが、最終的には一人に集約されていきます。

「人間関係の目的、ここで言う夫婦の日常の果て(幸せな家庭を築くこと)は、自分ではなく他者によって創られている」ということをテーマにしておりました。

【演出ノート】
朝起きて歯を磨くこと、寝る前にお茶を飲むこと、他愛もないことですら、何か意味があるのではないかと考えてしまいます。何気ない行動の積み重ねが日常であり、日常の先には未来があるのだから、きっとこの先に何か良い結果が待っているのではないか、幸福になれるのではないか……心の奥底で、そんな夢をみています。
そんな夢も、いつかは覚めてしまう時があるのでしょうか。いつの間にか別の所にいること、自分が決めていることなんてほんの僅かであること、皆が同じ夢をみていることー。
この物語は大正14年、劇作家の岸田國士によって書かれた作品です。 資本主義社会に突入し、欧米諸国に対抗し、日本全体の生産量を上げることが社会の絶対条件であった時代の、ある夫婦の日常を切り取ったスケッチのようなお話です。良き夫であるために、良き妻であるために、幸福な家庭であるようにと、夫婦は模索し続けます。

(以下略)

たった20分の芝居に数カ月かけて「生産性とは程遠いことをやってるな(笑)」と思いながら、相変わらず続けています。

仕事は効率を追い求めますが、こういう人間本来の非生産的な部分を愛おしく思いながら今後も活動を続けていきたいと思います。


劇場あんちょび
演出 爲近敦夫

劇団あんちょび

農大劇研OBで結成された東京都で活動する社会人劇団。テクノロジーの進化の中で、置き去りにされる人本来の姿への問いかけのため結成。「役者の肉体が舞台をつくる」泥臭さとエネルギッシュさが魅力。

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