演出レポート|現/代名作戯曲vo.2「朝日のような夕日をつれて’91」を終えて。
沢山の皆様にご観劇いただきました。
改めてご来場くださった皆様へ改めて御礼を申し上げます。ありがとうございました。
さて最近、「演劇は終わってしまったら何も残らないもの」と聞きました。ビデオや写真は残るが、演劇特有のリアルさは実際にその場にいた人にしかわからない、と。ならば、せめて演出としてどうやってこの戯曲に向き合ったかを記録することにしました。
観劇いただいた方には思い返していただきながら、そうでなかった方は是非戯曲を読んでみてください。(図書館に必ずあります)沢山の発見があるかと思います。
■「朝日のような夕日をつれて’91」あらすじ―
物語は「立花トーイ」という玩具会社にいる男たちが会社存続をかけた新商品を作ろうとするところから始まる。その過程でベケットの書いた「ゴドーを待ちながら」の世界へとの往来が描かれ、登場人物達も、その世界に合わせて変容をしていく。
登場人物達は何かを待ち続けている。それは、「ゴドーを待ちながら」の世界における「ゴドー」であり、「立花トーイ」においては世の中を変えるような新商品「イデアライフ」であり、メンバーが心を奪われた女性「ミヨコ」であった。
最終的に、「立花トーイ」が完成させた「イデアライフ」というバーチャルリアリティーソフト(ちなみに、時代によってこの製品は変化しており、初演の81年は「ルービックキューブ」)が当時における当時のあらゆる負を解決していくような未来を「期待」を想起させる。劇中の言葉を借りるならば、「究極の存在」でもあった。
しかし、この「究極の存在」は必ずしも彼らに救いをもたらすものでは無かった。「ミヨコ」は仮想現実の世界に逃げ込み、永遠ともよべる世界の中で輪廻転生を繰り返し生きていく。男たちは、実体を無くし存在そのものに変容し、「朝日のような夕日」が沈む世界で救いを待ち続ける。
■生々しい戯曲であること。
「朝日のような夕日をつれて」は81年に鴻上尚史氏22歳の時に書かれ、その後84,87,91,97,14年版と時代と共に内容がアップデートされ続けています。
今回私達は91年版を選びました。当初の理由は生まれ年に近いから、少し掘り下げれば、私達自信にも馴染みのある要素が多いので自らのルーツを探ることができるのではないかという点でしたが、いよいよ戯曲に触れてみる、役者を介して聞いてみると、その当世代を象徴する要素の全てが現在に結びついており、良くも悪くも私達の「今」を形成しているものだと気がつきました。
劇中、救世主を待ち続ける過程で、男たちは、その時代を象徴するような遊びを繰り広げます。それはその時代生きてきた人にとって、とてもリアルなものであり、それを客観的に観ている、眺めている私達にも当時の世相や風景が想起されていきます。とはいえ、それは必ずしも幸せなものだけでなく、時として恐ろしいほどに心に突き刺さるような現実を見せつけていきます。
「イデアライフ」はこういった現実から逃げ出せる、あるいは解決できるはずの救世主、「究極の存在」であったはずだ。しかし、その「究極の存在」が実際に創り出された結果、どのようなことになったのだろうか。人は救われたのか、幸せになれたのだろうか。
91年鴻上尚史氏によって予言されたこの問いは2019年の現代を生きる私達に問いかけます。そして、私達はその答えの中に生きています。「ゴドーはやってこないんだね」という言葉が、生々しくつきささります。
■永遠をつれて時代を渡り歩くということ。
「朝日のような夕日をつれて」の言葉の由来は「ゴドーを待ちながら」に起因します(※前回コラム参照)。永遠を示唆するその言葉は、現実に押しつぶされそうになり諦めようとしながらも、それでも次の時代に「期待」をしてしまう、人の性のようなものを表しているように思えます。象
徴する言葉に「4年前は―だったじゃないか」と過去の時代を振り返る瞬間があります(前回公演をただ揶揄しただけのような言葉にも聞こえますが)。
きっと彼らは何度も繰り返し、何度も「期待」をしてきたのだろうと。そして、それが生きるということなのだろうと。
■最後に―
今回は敢えて91年版を上演し、過去と現在を答え合わせすることで、「期待」は時に残酷な現実を突きつけることがある様子を演出していきました。ですが先に述べたとおり、人は未来を生きていく以上、何度も何度も「期待」を続けるのだろうと思います。これは、私達が芝居に対して、人に対して求めているものと同じようにも思えます。
私個人として、また劇団として、本戯曲を通して感じた価値観や選択肢の広がりに感謝し、また次の時代への一歩を踏み出そうと思います。
2019.07
劇団あんちょび
主宰・演出
爲近敦夫
劇団あんちょび 現 /代名作戯曲 vo.2
『朝日のような夕日をつれて '91』
脚本:鴻上尚史 演出:爲近敦夫
出演:大谷周也、もりすけ、宮本一文、小林大地、羽田共哉
照明:西川祥平、杉浦遼
音響:落合泰之
▼詳細
https://stage.corich.jp/stage/100768
▼日時
7月20日(土)13:00~/18:00~
7月21日(日)14:00~
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